さよならは約束だらうか

もう一度会うときまでさようなら

二.一四事変(かほり)

秋口からずっと気になる人がいた。

いや、実は夏くらいからチラ見していた。

朝の通勤電車で同じ駅から乗車するサラリーマン。35歳くらいかな。寝起きのまま会社に行くのか軽いウェーブのかかった頭はボサボサのまま、いっつも眠たそうな顔で、でもその優しそうなタレ目と無精ヒゲが愛くるしくて、わたしは見つけた瞬間からゾッコンだった。

そして、彼がいつも3両目の一番左のドアから乗るのを早々にチェックして、それからというもの、わたしも一緒に乗ることにした。

その日からもう三ヶ月。わたしの好き好きビームに超鈍感な彼は全然気付くことなく、でもそんなところもいいなって思ってて、この超片思いはいつまで続くのやらと嘆きながら、わたしはいつも彼から元気をもらっていた。

 

一月になって、偶然にも彼が帰る同じ電車に乗り合わせることがあった。

本当は帰りの電車1本ずつ検証していたのだけど。

朝はわたしのほうが先に降りてしまうからわからなかったけど、結構遅い時間に帰るんだなあと苦労の末に見つけ出した情報は、わたしの脳内に無事インプットされた。

それからというもの、わたしはこの帰りの電車もマークして、3回に2回、彼がこの時刻の電車に乗ることを確認した。ただこの時間の彼はタレ目がさらに下がり、疲労困ぱいしているよう。そこがまたかわいいのだけど、なんだか可哀想だなあとも。

わたしの好きはとまらない。

わかってる。これをストーカーって言うんだ。でも、でも、わたしから告るなんて絶対出来ない。でも…

目まぐるしく葛藤した脳内から導き出した答え…それは「バレンタインにあやかってチョコを渡す」だった。

とにかく偶然を装ってバレンタインにチョコレートを渡そう。帰りの電車が駅に着いて改札を出るとちょうど0時…超ドラマチック!などと妄想が妄想を呼び、わたしは何度もお腹いっぱいになりながらシュミレーションを繰り返した。

そして運命の2月13日、わたしは最終1本前の電車に乗ったのだ。幸先よく空いた席にそそくさと座り静かに目を閉じる。全てを運に任せよう。彼がこの前の電車で帰ってしまってたら潔く諦める。もしこの電車に乗ってきたら、そのときは…