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さよならは約束だらうか

もう一度会うときまでさようなら

ZARDという付箋③今日の朝は、二度とない朝

「やるか!」

パンッ!と組長の大きな手拍子で、僕らは一斉に段ボール箱を開け弁当箱を取り出し始めた。戦争の始まりである。

調理場に3人(三浦さんともう一人若手料理人と雑用バイトの子)、詰める係に10人という配分でスタートしたのだが、数が数である。空の弁当箱を並べるだけでも大作業なのだ。

会議室によくある折り畳み式の長テーブルと、レストランのテーブルを合わせて作業台を作り、その臨時会場に散らばって僕らはテーブルの上に隙間なく空の弁当箱を並べてゆく。まだみんな慣れない作業のため異様に時間がかかる。初対面の遠慮からか人の連携もままならず

「お願いします」

「すいません」

「お願いします」

「すいません」

のようなよそよそしい態度でぎくしゃくしている。

なんとか800個並べ終えて時計をみると0時50分だった。弁当箱を並べるだけで、およそ1時間近くかかったのである。計算では800個3時間で終わらせる予定である。「終わるのか?」という不安に圧し潰されそうになりながら、僕らは一心不乱で総菜を詰め込みむのだった。

弁当箱はA列250、B列250、C列300な感じで並べ、A列はご飯を詰め、B列は桜大根とポテトサラダ、C列はできたばかりの竹輪の磯部揚げを詰め込んでいた。さらにA列の反対側から焼き鮭を詰め、B列反対側からは卵焼き、C列は。。。のように10人が一斉に詰めてゆくのである。ZARDがこれでもかってくらい大音量で流れる場内。。。僕らは無限に並ぶ弁当箱に、詰めて詰めて詰めまくるしかないのである。

雑用係のバイトが番重(アルミでできた積み重ねられる業務用の大きな箱)いっぱいに唐揚げを入れて持ってくる。

「唐揚げできましたー!」

「おぅ兄ちゃん!威勢がいいなぁ!」

組長は余裕である。

「兄ちゃん!つまみ食いしてっとあとでえらい目にあうぞ!カカカカカカカカ!」

と組長は高笑いである。

「おい!ここ鮭ねえぞ!鮭!ミスはさけられねぇってことか!カカカカカカカカ!」

 

 

!!!! 組長。。。この人全体を見ているのである。士気を高めるため自ら声を出し、単調な作業に変化をつけているのだ。

 

 

周りを見れば、みんな無表情で弁当箱に向かいロボットのように総菜を詰め込む作業を繰り返している。僕らは何かに覚醒したような状態で詰め込んではいるが、それはもはや人間の限界を超えていて、どうしてもミスが出てしまう。順番に詰めるだけとはいえ、抜けが出てしまうのはやむを得ない。ただそれを最小限にするため集中力をギリギリ維持させる緩衝材的な役割のZARDや、組長の声掛けが必要だったのだ。歴戦を戦い抜いてきた闘将はやはり違うのである。

 

「おぅここ唐揚げねぇぞ!唐揚げなかったらお手上げだぞ!」

 

どう考えても笑えない組長のダジャレだが、時間も時間、覚醒してる僕らはおかしくて仕方がない。

 

そうこうしている間にあらかた詰め終えた僕らは、ひとつひとつ総菜の抜けがないかチェックしながら弁当箱の蓋をしめてゆく。10人が20個の目で確認するのだけれど、この最終のチェックまで潜り抜ける抜けがあったりして驚かされる。

 

「梅干しねぇよ。。。やべぇやべぇ。。。」

 

蓋を閉め、段ボール箱に詰め、第一弾の800個が完成である。ここまで3時10分。

 

「よし!10分休憩!しっかり休め!作業はするな!」

 

と言って組長は目を閉じた。この人10分寝る気なのである。

10分くらいじゃ。。。と思っていたが、何もしないでコーヒーを飲む。初めて会った料理人たちと「そっちの店はどう?」とか話をする。ZARDはもう何度もリピートしていて曲順を完全に覚えてしまっている。そんな10分間、だいぶリフレッシュされるのである。はやる気持ちを抑えてでも休む必要があるのだ。組長の指示はすべての経験則に基づいているのだろう。とても勉強になっている。

 

「んじゃぁ2回目行くぞ!」

 

パンッという組長の手拍子で作業再開。僕らはまた一から弁当箱を並べ作業を始める。

早い。明らか慣れている僕らはだいぶ手順が良くなっていた。人間関係も構築され、気がつけばだいぶやりやすくなってる。弁当箱は30分で並べ終えた。詰め込み作業も2回目なので、思った以上にスムーズに作業がはかどるのである。まぁそれでも

「お手上げぇ~~~!」

と組長が大声をだして慌てて唐揚げをもっていったり、

「酒、酒、酒が飲みてぇなぁ~~~!」

といえば焼き鮭をもっていったりもするのだが。

 

調理場からはありったけの番重に、唐揚げや竹輪の磯部揚げ、焼き鮭が出来上がってくる。三浦さんも化け物である。

後で聞いた話だが、この揚げ物を揚げるのにフライヤー(超でかい揚げ物の設備)フル稼働で、サラダ油18缶(一斗缶 約18ℓが18缶)使ったそうである。フライヤーに油を満タンで6缶使い、途中油が死んで(コシがなくなる感じ)入れ替えて死んで入れ替えての18缶である。揚げ物担当は若い料理人だったけど、身体中が油臭くなり途中で吐いたそうだ。ちなみに雑用バイトも始めのうちつまみ食いとかしてたけど、途中気持ち悪くなって吐いていたそう。だから組長がつまみ食いすんなって言ってたのね。

 

ZARD「負けないで」だけが耳奥に何度もリピートするなか2回戦目も無事終了。時間は5時半である。早い!めちゃめちゃ早くなってるのである。完全身体が仕上がっているのである。店の中から外をみるとだいぶ明るくなってきていた。もう前日から働き始めて20時間ぶっ通しである。なのになんて清々しい朝。まだあと一回戦残っているというのに、僕は完全にハイになっていた。

 

「よし!20分休むぞ!」

 

 

ZARDという付箋(最終回)そしてZARDはタイムマシンになった】