さよならは約束だらうか

もう一度会うときまでさようなら

ペスがいた日 短歌連作

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ペスがいた日 / たかはし みさお

 

ダンボール親元離れ悲しみの汚れた君はうちの子になる

日は暮れて夜もベソベソする君を「ペス」とこれから呼ぶことにする

いままでは起きることない時間でもただひたすらに早起きをする

ねえ行くの?行くの?行くの!とクルクルと右に左にペスは跳びはね

「ほら出来た」逆上がりする僕のそば見つめるペスはだらしない舌

ややズレて縫い付けられたアップリケ 家族だけしか犬とわからぬ

 

 

学校はつまらなくてもペスがいるペスがいるからペスがいるなら

押し込んだ ペスはバナナが大嫌い上目遣いで申しわけなく

雪が降る ジャンプしながら口を開けクルクル回る寒くないのか?

稲刈りの後の田んぼを猛然と走る走る 突っ走るペス

ペスはただ ただひたすらにかしこまり晩ごはん待つ ただひたすらに

鳴り響く夕暮れの空高らかに遠吠えハモる防災無線

高校に通う毎日たのしくて 夜の散歩はおざなりになる

 

 

 

ペスはもう歳を重ねたおじいちゃん テニスボールを横目で見てる

雪が降る 犬小屋のなか伏せたまま じっとしている歳をとったな

 

 

 

医者は言う「強い薬になります」と ペスはどうして黙っていたの  

別れとは知らぬ間にカウントが始まっていて ただゼロになる

なんでだよもう少しだけ生きていて ただそう思う ただそう願う

横たわるペスは申しわけなさそうな 上目遣いでお決まりの顔

ゆっくりと瞳を閉じる まだだよと心は叫び声にならない

 

 

 

ペスはもう準備をしてた 目を瞑り虹を渡って空の子になる

もう息をしていなくても横たわるペスのそばから離れられない

泣きながら見上げた空は幾千の星が瞬くきみの見る空

餌皿と首輪を庭に埋めましたごめんね ごめんね ごめんね ごめんね 

 

 

 

がらんどう今日からひとりわかってる しなくてもいい寄り道をした

空の子は忘れたことにしていても時折滲む雨の五月に

添い遂げて別れてもなお日だまりに想いを馳せる愛というもの

 

 

ぼくの描く物語にはペスがいて千切れるほどに今も尾をふる

 

 

 

ペスは小学生のころから飼っていた雑種犬で、僕の友だちでした。ペスが亡くなってからは二度と動物など飼うまいと思っていましたが、最近は「にこつ」という猫を飼い始めて五年になります。最近はTwitterにUPしたりしてますよね。

 

小さいころはペスがいること自体"ふつう"になってしまい、雨が降ったり寒かったりすると散歩を休んだり、学校が面白くなってペスと遊ばなくなったり。

でも、終わりってほんとうに突然やってくるのです。思い知りました。初めて家に貰われてきたときからずっと別れのカウントダウンは進行していたんですよね。

いつゼロになるかなんて誰にもわからない。

このときを境に、僕はずっとこう考えているのです。

 

連作28首。「ペスがいた日」でした。(#うたの日から抜粋+加筆修正あり)