さよならは約束だらうか

もう一度会うときまでさようなら

二.一四事変(かほり)

秋口からずっと気になる人がいた。 いや、実は夏くらいからチラ見していた。 朝の通勤電車で同じ駅から乗車するサラリーマン。35歳くらいかな。寝起きのまま会社に行くのか軽いウェーブのかかった頭はボサボサのまま、いっつも眠たそうな顔で、でもその優し…

二.一四事変(たけし)

営業という仕事に終わりはない。 膨大なノルマのため右に左に奔走し、月末ギリギリまで追われ続け、なんとかノルマを達成したところで月が変わればその月のノルマはまたゼロから始まるのだ。数字に追われない日など永遠に訪れることがない。 その日はだいぶ…

あとがき(恋煩い)

この物語、先月のはじめに僕が本当に参加した自己啓発セミナーの出来事がベースになっています。ただ、もちろんこれはだいぶ脚色されたお話で、でも半分くらいは本当で、だからハッピーエンドを迎えようならたちまちゲス不倫になってしまいます。なので本編…

恋煩い(こいわずらい)砂時計

セミナー最終日の朝。 二日泊まって、もうチェックアウトが迫っているというのに、今更ながら初めて窓を開けてみた。ビルの隙間から小さく見える空はどんよりとした曇り空で、正面のビルにぶつかって跳ね返るその風は、起き抜けのTシャツ1枚だった僕の首元に…

恋煩い(こいわずらい)逃亡

二日目の最終セミナーだけあって内容は佳境を迎えている。 自己啓発セミナーも明日を残すのみだ。熱く語る講師。その熱血トークに感化された受講者たちの集団はどんどんと熱気を帯びてきていた。それはもう室内の空調を脅かすほどに。 紙切れに 「暑いね」 …

恋煩い(こいわずらい)ぬくもり

二日目の朝、ひどく寝坊した。 実はセミナー初日を迎えるにあたって、ほとんど睡眠が取れていなかったのだ。 BARの夜は長い。 会社から出向という形で赴任した無理矢理な人事ではあったけれど、BARの仕事を始めてみれば接客は楽しく、むしろ面白かった。本当…

恋煩い(こいわずらい)帰り路

彼女の肩と僕の肩と、そっと触れ合ったままセミナーは進行してゆく。 セミナーは「いま不満に思っていること」についてだった。 彼女は会社の中でチームリーダーに抜擢されていて、そのチームのスタッフ(彼女より年上ばかり)が、自分の言うことを全然聞い…

恋煩い(こいわずらい)

貴重な週末だというのに、会社の命令で行かされた三日間のセミナー。そのセミナーを終え、自宅に向かう暖房の効いた湘南新宿ラインに揺られている。 サラリーマンである自分に会社の言いつけを断る気概など微塵もなかった。いや、そんな勇気は鼻からなかった…

特別な朝(後編)

予選会当日の朝は早い。早朝5時過ぎにPAなど音響機材が搬入され、マイクチェックなどを行なう。6時から出演するバンドのリハーサルが20分ずつくらい、この年の予餞会は僕らを含め合計5~6バンドの有志演奏が行われた。軽音楽部の後輩グループ数組と別の同…

特別な朝(前編)

その昔バンドブームなるものがあった。これはその1983年当時のお話。 僕が高校生だったおよそ30年前は、エレキギターを弾くなんざ不良のやることで(笑)周りの大人たちから白い目で見られ、特に親からは「あんたそんな蓮っ葉なこと止めなさい」*1などと言わ…

二学期を迎える君へ

高校野球が終わり、鳥人間コンテストが終わり、24時間TVが終わり、いよいよ二学期が目前に迫ってきた。 この時期「いじめ」がある学校へは戻りたくない!行きたくない!って子どもたちがいるという。中には思い詰めてしまい、命を絶ってしまう子も。 哀しい…

僕らの働く理由

僕は高校生のころバンドなんてものに明け暮れていて、進学やら就職やらとか、そんなことは全然考えずに来る日も来る日も楽器と戯れる毎日を過ごしていた。漠然と、大学に行ってもやることないなあ。。。何かモノを作る仕事とかしたいなあ。。。適当にバンド…

さよならは約束だろうか

【強制送還】国外退去処分が下されると五年間は入国許可が下りない。 不法入国、密入国して詐欺行為を働いたり、薬物を持ち込んだり、悪いことする外国人を排除することもあって、必要な法であることに間違いはない。 レストランで店長をしていたころ、僕は…

ペスがいた日 短歌連作

ペスがいた日 / たかはし みさお ダンボール親元離れ悲しみの汚れた君はうちの子になる 日は暮れて夜もベソベソする君を「ペス」とこれから呼ぶことにする いままでは起きることない時間でもただひたすらに早起きをする ねえ行くの?行くの?行くの!とクル…

店が潰れるということの悲しみ

もういいかな。 僕は以前サンマルクというお店を運営していたのですが、潰してしまいました。ピーク時で月商1300万くらいありましたが、閉店するころには平均月商800万~900万ほどになっていました。普通のレストランなら十分すぎる売上額なのですが、このサ…

「さよなら」といった不思議な少年の話

幼稚園時代、僕は近所の子が通う幼稚園ではなくて、キリスト系の幼稚園に通っていた。神様にお祈りしてからお弁当の時間だったので、不確かな記憶だけど、きっとそうに違いないのだ。僕はお祈りのとき必ず目を瞑ったフリをして、ちょっぴり薄目を開けたりし…

ZARDという付箋(最終回)そしてZARDはタイムマシンになった

外は完全に明るくなっていた。 20分休憩はあっという間だった。最初の10分休憩はかなりリフレッシュできたのだが、逆に20分休憩するとぼんやりしてしまう。脳が疲弊しているのか人の声がどこか遠くで聞こえるような錯覚を覚えてしまう。そう。。。学生の頃に…

ZARDという付箋③今日の朝は、二度とない朝

「やるか!」 パンッ!と組長の大きな手拍子で、僕らは一斉に段ボール箱を開け弁当箱を取り出し始めた。戦争の始まりである。 調理場に3人(三浦さんともう一人若手料理人と雑用バイトの子)、詰める係に10人という配分でスタートしたのだが、数が数である。…

ZARDという付箋②組長登場と呪詛の響き

「はい、わかりました」 と言うしかなかった。断れない。。。いや、断れるわけがない。どうやってやるかなんてわからないけど、2200個の弁当を作るしか選択肢がないのだ。 僕は料理人の三浦さんに相談した。 「2200個弁当の注文受けたんですけど、応援てホテ…

ZARDという付箋①レストランの立ち上げ。

ZARDの曲が突然カーラヂオから流れてきた。 ラヂオの良いところは予想だにしない曲が不意に流れてくるところだろう。何故なら僕の中でZARDとは、自ら聴くことのないアーティストのひとつなのだから。車を運転しながら僕は、20年前の今日の日の激動を想って苦…

携帯がない時代、人には糸電話があった。

高校生だったころ(もう30年以上も前の話だ)用事があって友だちの家に電話をした。文化祭の代休とかで平日の昼間。。。たしか月曜日だったと思う。夜に文化祭の打ち上げをどうする?とか、そんな他愛のない話だったような、うろ覚えな記憶ではあるけれど。 …

出会った瞬間から別れのカウントダウンは始まっている。

看護師さんの送別会だった。 30名ほどの看護師さんが一堂に会し、酒を飲む。辞めてゆく女性は語学留学のため渡米するようだ。同僚たちはそれぞれ声をかけ、笑いながら涙ぐんでいた。7年間在籍したという。それはそれは積もる話もあっただろう。お店の計らい…

会いたいのなら会いに行け

JAZZの生演奏。売れているには程遠い、けれどいっぱしの演奏は目を見張るものがある。JAZZの世界とはそういうもので、陽の目をみない割に卓越した演奏を奏でるミュージシャンというのはごまんといるものだ。 今日演奏したピアノトリオも然り。ご多分に洩れず…

「祝う」という生き方

つけっぱなしのラヂオからタレント予報士のかわいい声が聞こえている。桜の開花宣言が一日早いとか遅いとか、でも外はそんなに暖かくなくって、クリーニングに出そうと思っていたコートをまた引っ張りだすという始末。「予感」とやらに僕は油断してしまった…

辻村深月さんを深読み「名前探しの放課後」徹底考察&相関図

名前探しの放課後』再読しました。 今回は深く読み込んだ事情も含めてじっくりとこの作品を考察してみたいと思います。 以後かなりなネタバレなので、もう絶対知りたくない人は読まないでね。 この『名前探しの放課後』は上下巻約850頁にも及ぶ大作で、真剣…